面白いだけでは済まされない⁉映画『君たちはどう生きるか』には全人類が向き合うべき問いが隠れている

感性を高める時間

スタジオジブリの映画、『君たちはどう生きるか』を観ましたので、レビューいたします!

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映画プロフィール

2023年7月14日公開

監督・脚本・原作:宮崎駿

上映時間:124分

ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞など、数多くの賞を受賞しました。

声優

役名(声優)

眞人(山時聡真)

父の再婚を機に疎開した11歳(小学6年生)少年。戦争中に母を亡くしてから心を閉ざしている。新しい環境にも馴染めていない。

青サギ/サギ男(菅田将暉)

眞人が暮らし始めた屋敷の周りを、監視するように飛んでいるアオサギ。正体は、「下の世界」からやってきた塔の使い。

ヒミ(あいみょん)

「下の世界」で眞人が出会った女の子。火の魔法を使い、夏子を妹と呼ぶ。

夏子(木村佳乃)

眞人の叔母であり、新しい母。美人で優しい。お腹の中には眞人の弟を身籠っている。

キリコ(柴咲コウ)

屋敷で働く7人のばあやの一人。眞人と一緒に「下の世界」に行き、若いころの姿で眞人の手助けをする。

勝一(木村拓哉)

眞人の父。軍機に関する工場を営んでいる。責任感が強く、眞人に対しても過保護な一面を見せる。

あらすじ

太平洋戦争の三年目、眞人は母のヒサコを亡くした。翌年、勝一はヒサコの妹の夏子と再婚し、眞人は母方の実家に疎開する。疎開した屋敷では奇妙なアオサギが飛び、森の奥には謎の塔が経っていた。

ある日、継母の夏子が塔のある森に入ったまま屋敷に帰ってこないという事件が発生する。眞人は、ばあやのキリコの制止を聞かず塔の中に入り、「下の世界」に落とされてしまう。

タイトルについて

映画『君たちはどう生きるか』には同名小説がありますが、本作はその“原作映画”ではありません。

物語の中で、眞人の母が彼に遺した一冊の本のタイトルとして登場します。しかし、映画を観終わったあと改めてこのタイトルを見返すと、宮崎駿監督が観客に投げかける“人生への問い”として強い意味を帯びて迫ってきます。

私なりの考察

宮崎駿監督の作品は、すでに多くの人が深い考察を語っています。しかしここでは、あえて他の解釈を見ずに、作品を観たままの私の感じたことをまとめます。

誰しも悪意を持っている

映画『君たちはどう生きるか』の登場人物たちは、善悪のどちらかに割り切れる存在ではありません。眞人自身も、いじめへの仕返しとして自分を傷つけ、周囲を巻き込んでしまうシーンがあります。それは彼の心に「傷」として一生残るものです。

しかし私は、この作品が伝えているのは「悪意は誰にでもある」という前提。そして、大切なのは“悪意をどう扱い、どう生きるか”なのだというメッセージだと感じました。これはまさにタイトルの問いかけと響き合っています。

戦争の縮図

可愛らしいワラワラと、それを容赦なく食べるペリカン。ヒミが魔法でペリカンを撃退するも、その過程でワラワラにも犠牲が出ます。

このシーンはまさに「戦争構造」を象徴していると思いました。

ワラワラ=無力な命

ペリカン=生きるために奪う存在

ヒミ=守るために戦い、結果的に犠牲を生む存在

そこに善悪はなく、「やらなければ生きられない」という避けられない構図だけが存在します

また、“黒い人間”たちは殺生ができず、誰かが奪ってきたものを受け取って生きています。これは戦争に巻き込まれる一般市民の姿にも思えました。

さらに、インコ達の存在は「戦争を起こす側」「指示する側」を象徴しているように見えます。

インコ大王は「国を守る」という大義名分を持ちながら、その判断ミスで世界の崩壊を招いてしまう。これは 「トップの一言が国を動かし、時に破滅を引き起こす」という現実の戦争にも通じるものがあります

若者へのメッセージ

作品を通して私が強く感じたのは、「大人が作った世界にそのまま従わなくてもいい」という若者へのエールです。

誰と関わるか、どんな世界を選ぶか…

未来の選択は、大人ではなく、自分自身が決めて良い。世界は思い通りにならなくても、“自分の生き方だけは選べる”。

まさにタイトルの問い「君たちはどう生きるか」に直結するメッセージではないでしょうか。

感想

『君たちはどう生きるか』は、宮崎駿監督の“集大成”とも言える一本だと思います。圧倒的な世界観、手描きの迫力、緻密な美術背景。どの要素をとっても、ジブリ史上最高峰とも言える完成度です。

100%の悪人はいない

この映画には、憎みきれる“完全な悪役”がいません。

嫌なところがあるキャラもいるけれど、その裏側には必ず「人としての弱さ」や「優しさ」が描かれているからです。

たとえば眞人の父・勝一。亡き妻の妹と再婚し、すでにお腹に赤ちゃんがいる…この設定だけ見れば嫌悪感を持つ人もいるでしょう。

しかし彼の行動からは、眞人への深い愛情が伝わります。眞人が消えた場所に危険を顧みず飛び込む姿は、その象徴です。

青サギ男も最初は嫌味な存在ですが、どこか抜けていて憎めず、眞人と関わるうちに心が変化していきます。

キリコや夏子にも“癖”はありますが、その奥にある強さや優しさが丁寧に描かれています。

だからこそ、魅力を一つも感じさせない戦争という存在が、この映画で最も憎たらしいものにしているのです。

毎年放送してほしい作品

かつて『火垂るの墓』が毎年のように放送され、戦争の悲しみを伝えてきました。しかし重すぎる喪失感は、子どもにとって負担が大きい側面もあります。

一方、『君たちはどう生きるか』は、戦争の悲しみを前提としながらも、“未来を選び取る力”を描いた作品です。

だからこそ、現代の子どもたちにこそ届けたい映画だと思います。

毎年とは言わずとも、隔年で放送してほしいほど、平和と選択の大切さを自然に学べる作品です。

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